私も「企業人」として、決して言える立場では無いが、独立に関してよく相談をうけます。
人生の3分の2以上が、まがりなりにも社長業で、叉、広告関係の仕事に携わっていた事から「独立のスタート」から本当に沢山見てきました。当社関係から独立した者や、取引先から独立した方まで、何百です。
飲食店・美容師・専門職種(デザイナー)さん達は以外と独立が早いが、何年も継続している方はまれである。職歴の継承で独立した者も、ほとんどが惨憺たる結末で、全財産を失っている。中には離婚したり、夜逃げ同然で居なくなった者もいる。私から見て本当に成功した人はまれであって、それ以外は「何とかやっている」と言う表現が相応しい方が2割もいないと思われる。
商売をやったことのない人間が、商売を始めて成功するのはまず難しい。それでも親が商売をやっていたなら別で、それなりに子供の頃から「商売のDNA」ができている。見よう見まねで、商売とはどういうものかが漠然とでも分かっているし、お金のありがたみもわかる。
ところが、毎日給料を自動的に振り込まれるサラリーマンには全く分からない。これが致命的だ。
今までの経験と著名人の言葉を参考にさせて頂き独立に対しての心構えを私なりに五項目にまとめてみました。
【独立の五箇条】
一、今までの肩書きと今まで持っている名刺を捨てる事
二、今の生活レベルをとことん落とす事
三、孤独を苦に思わない事
四、独自の人生観を持っていく事
五、家庭の犠牲を覚悟する事
まず第一に、
『今までの肩書きと今まで持っている名刺を捨てる事』
失敗の原因の第一は、自分の肩書きに対する「過信」である。
会社にいるときは、そんなにおかげをこうむってはいないと思っても、会社と言う看板や肩書きに助けられているのだ。取引先の営業マンもあなた個人ではなく、組織の肩書きにアプローチしているのです。相手は顔を見ないで名刺を見る。肩書きで仕事をしていると考えてもいい。名刺の名前の横には会社や役職がある。これが「信用」の証、大変な財産なのだ。だが残念なことに、それが本当に実感できるのは肩書きを外したときなのである。ところがほとんどの人が自分の力を過信して脱サラしたがる。その結果は、私の知る限りではほとんどが失敗の道を歩む。
当社でもこんな事があった。
募集して入社した営業マンが自分の今までの名刺台帳を持ってきた。当初は私も凄いとビックリする程の枚数だった。しかし何年も前の名刺なって、なんも役に立たなかった。この者は名刺のマニアだったのか!?
双方の名刺は組織に在籍している時に効力があり、組織から抜けると気の抜けた炭酸飲料と同じで有る。 人間はブランドに愛着がある。「オレはもと○○企業の社員だ。できれば格を下げたくない、腐っても鯛だ」と思い込む。これも人情だが、それが失敗のもとだ。
第二は、
『今の生活レベルをとことん落とす事ができるか?』
独立の条件は十分な資金力です。最低一年間くらいは収入がゼロでも生活していける金銭的な蓄えが必要だ。一年間くらいは収入がゼロでもと言う事は今までの生活レベルをとことん落とさなければならない。以外とこれが出来ない。体裁もあり、見栄もある。ましてや社長になったのだからと言う事だ。
今まで通り、やれゴルフだ、やれ付き合いだと言う事では絶対に失敗します。もし脱サラするなら、まず「形はどうでも、生活はシンプルにする事」です。 冠婚葬祭等も今まで通りにはいかない。現在の冠婚葬祭は環金相殺に等しく商売に結びつくものではない。
ある者が独立をすると言う事で、知り合いの社長さんが、300万出資してあげた。
その者は、スタート段階から、自分の給料を50万と決めて、売上の殆ど無い数ヶ月間とりつづけていた。1年後には出資してくれた社長さんとも喧嘩別れで、その者を誰も相手にしなくなった。給料を取ることなのか、会社を守っていくのか、基本的にはき違えている。
「趣味が実益になる」という安易な考えもダメです。
趣味は生活の副産物です。安定収入が入るサラリーマンの時はのゴルフも釣りも別に良いですが、独立は安定収入が見込めません。その中で自分の時間の取れる趣味に没頭する時間はまず無いものと思わないといけない。
第三は、
『孤独を苦に思わない事』
これは、②で上げたゴルフも無いし、趣味の付き合いも無いと言う事は、結構寂しいものだ。ましてや「今まで取引をしてやっただろう」と思う業者は、皆手のひらを返すものだから、これは当たり前と思った方が良い。
この「孤独」と言うものは抽象的だが、男社会の独特のもので、女房は案外判らない。人間(男)は弱い者で、なかなか一人では生きていけない。猿と一緒で群れに生きる動物です。 今まで組織的群れの中で名刺、肩書きと言う魔法の印籠を振りかざしていた者が、その印籠が無くなるのだから本当に寂しい物だ。よって仕事以外のゴルフや飲み屋などで群れたがる。これが失敗の要因にもなる。
独立をした者が東京にいって毎日夜に奥さんに電話する。それも1時間以上話す。夫婦仲が良いのはいいのだが、この者は無理だと思ったが、案の定1年もたたない内に賛嘆たる結末だった。寂しさを女房や女に求めていると失敗する。
第四は、
『独自の人生観を持っているか』
小さいお店でも何年も継続している人は、やはり人生感と言うか哲学を持っている。変人と言われるかもしれないが、この人生感が最終的にその人の魅力なのです。
デザイナーが2人で会社を立ち上げて独立した。技術力は凄いものがあったが、最終的にこの者達に人生感も魅力も無かった。「拓銀が潰れてから仕事が無くなった」と言い訳しているが、あなた達ごときに拓銀なんてなんも関係ない。
会社を辞めたからすぐ独立する。多くのサラリーマンはここで失敗している。三流のフランチャイズチェーンなんて絶対やるべきではない。本部に吸い上げられるのがオチだ。飲食店、ラーメン屋、ビデオ屋等のフランチャイズに入って失敗した例は沢山見てきた。
最初はフランチャイズチェーンの本部に騙される。これだけの利益が出ますと言った豪華なパンフレット。 次に不動産屋に騙される。(表現に偏見があるが)この付近にこれだけの住民が住んでいて、近くにこの様な店が有ると言う、地図を持ってくる。独自の考えがないから、目に見える物に納得せざるを得ない。そして脱サラ起業は失敗するとたいてい数千万くらいの負債になる。借金を背負って家もとられて、会社は倒産、そして個人も自己破産という結末になってしまう。
とにかく心して掛かることだ。例えうまく成功したと思っても最低5年は心して掛からないといけない。
ではどう準備すればよいか。それは、もし野球にたとえるなら、いちプレイヤーとして技を磨くのと同時に、監督としての力量を身につけることだ。そのためにはまず自分を磨き、人に応援してもらえるような魅力ある人間になることだ。仕事を回してもらったり、人を紹介してもらえるような信頼関係を築ける自分になることである。
第五は、
『家庭の犠牲も覚悟する事』
別に夫婦仲だとか家庭を帰り見るなと言う事ではない。
今までのファミリー的イベントは出来ないですよ。子供や孫の運動会だとか、クリスマスだとかは、仕事とぶつかる事がある。「自営業なら時間の拘束もないし、自由な時間がとれる」というのは幻想です。なんぼ顔を合わせていても、普段は電話は来ない人が、他社が休みの時にお客さんは電話してくる。「自分の所も休み!」と言ってるようでは無理です。この時が信用を作る絶好のチャンスである。この時が「恩」を売るのではなく、企業として初めて人の役に立ったといえるでしょう。役に立つことが商売の基本です。理容師さんは開業の時、皆、日曜日も休まず営業してきて今の店舗が有るようです。
私が小学生の時、運動会に父親が来てくれた記憶がない。まして鮮烈に覚えているのが、午前中の部が終わって、昼食時に親が間に合わなかった事だ! 同級生の親はみんな向かえに来ているのに、自分だけが取り残され、半べそかいていた記憶がある。
実は自営業こそが一番自由から遠い人たちなのだ。女房、子供のぼやきは覚悟して掛からないといけない。私も女房と何度喧嘩したことか!
以上の5項目が全てでは有りません。
沢山の成功者もいっぱいおります。私の考えも偏見的で古いのかもしれない。会社を興したときから、経営に自信を持ってるという人はいないと思います。
最初は無我夢中でするでしょう。 自分自身が先頭を走り、自分の時間もなく自己犠牲を払いながら、一生懸命に盛り立てていれば、その結果、会社は立派になり、利益が上がるようになります。
頑張ってください。